乙嫁語り 1巻 (BEAM COMIX)
ヒストリエ、ヴィンランド・サガと並ぶ歴史漫画の快作。
ただしそれらが男性的な暴力性、古代から中世におけるある種の暗さや陰惨さをも正面から描いているのに対し、こちらは対照的に軽やかで明るく女性的。
また先の二作が歴史の中枢に関わった人物を描いているのに対し、こちらはあくまで市井に生きた名も無き人々を描いている。
歴史小説と時代小説の違いとでも言おうか。
そのため長大で血沸き胸躍る歴史ロマンを期待すると肩すかしを食らうかもしれないが、とある地域のとある時代へと小旅行する気分を味わせる漫画ならば、最近ではこの森薫が随一ではないだろうか。
英國戀物語エマ DVD-BOX
20世紀初頭の英国で、裕福な家の跡取り息子「ジョーンズ」が、かつての家庭教師であるところの恩師である女性の家を訪ねた。
だが、そこで出会ったメイドの女性「エマ」に一目ぼれ。かくて始まる恋物語である。
当時の英国は厳しい階級差に彩られた社会であった。貴族と庶民では「身分違いの恋」になる。
ましてや結婚などは「夢のまた夢」であった。
足しげくエマの元に通うお坊ちゃま。大人しく控えめで無口なエマだが、美人だから寄ってくる男は多い。
が、なぜか悉く退けてしまう日々。だが、お坊ちゃまだけは違った。相性が良かったのだろうか?少しずつ近付いていく2人の心。
けれど、運命は2人を引き離そうとする。2人の出会いから別れまでの第1章である。
全体の雰囲気は非常に上品かつ優雅な雰囲気です。
OPとEDに歌を入れなかったのも作品としての雰囲気を考えれば英断だろう。
OPから貴族たちの舞踏会のシーンと、庶民の日常風景とを対比させて
当時の社会風刺をしているのは見事だと思います。
ただ、人物の顔が「やや縦長」なのと、風景と比して浮いているような印象がしているのがマイナス。
全体的に非常に出来のいい、優れたアニメーションです。
大槍葦人ラフ画集総集編 『BETAGRAPH COLLECTION』【書籍】
過去に出版された設定・ラフ画集を1冊にまとめたもので
・BETAGRAPH2(白詰草話):p002〜
・SECRET GARDEN(Quartett、ロマネスク):p088〜
・BETAGRAPH about PERIOD(ピリオド):p174〜
・BETAGRAPH4(企画段階のフェアリースなど様々):p248〜
・BETAGRAPH5(シュガーコートなど):p324〜
の合計400ページになるかなり分厚い本です
収録されている絵は基本かなりラフいですが、キャラクターの設定やデザインの変遷、
同人時代の絵や没企画など様々な絵が収録されていてファンには嬉しい一冊。
「えっこれ18禁じゃなくて大丈夫なの?」な絵もちらほら、いやかなり沢山あります、
芸術なので大丈夫。
ゲーム会社リトルウィッチの作品は大体カバーされているのですが、残念なことに
19世紀のイギリスを舞台にしたメイドさん中心な作品「ロンド・リーフレット」は
このようなラフ・設定画集が出ていなかったのかぽつんと抜け落ちてしまっています。
それだけが惜しい本でした。
英國戀物語エマ 1 通常版 [DVD]
テレビ放送を見て欲しくなりました。これはなんて言ったらいいか・・純愛物だと思いますが・・。ゆっくりと流れる時間のなかで人物の心の動きが丁寧に表されています。まったく興味なかったのですが偶然見る機会があり・・見入ってしまいました。ストーリーにはとんでもなく盛り上がるわけでもなく、ギャグで笑うわけでもなく、ゆるゆるとそこにいる人物達が日常の生活をしながら恋に悩んだり、自分の過去を振り返ったり、大切な思いを思い出していきます。普通、作品には「腹が立つ」とかこんなやつは許せんみたいなやつがいるんですが、二話観た限りではいません。純粋にエマ達の恋や心の動きや、その見せ方がうまいので観ていて飽きません。身分の違いや家のしがらみ、心のすれ違いがこれ程うまく表現できている作品を私は知りません。単純な作品なようで奥が深いです。これを機に本を購入しようか迷っています。かなり本も評判いいです。
乙嫁語り 2巻 (ビームコミックス) (BEAM COMIX)
漫画という形態を取っているものの、純文学に近いのではないかと感じています。
その為か、ストーリーは起伏には富まず、いざこざが起きても短時間での終結を見ます。
(念のためですが、私は小説に対しても「これが純文学だ」「純文学とはこうあるべきだ」などと、画一的に捉えているわけではありません)
テーマ的な物も、一貫して表面には出てこないで、ゆったりと流れていると言った感が有ります。
漫画(映画や小説なども含みますが)は娯楽であり、エンターテイメント性が高くないと……という方には、やや受け入れづらい点があるのではないでしょうか。
この作品に何を求めるのかと言うスタンスで、だいぶ評価が分かれる作品だと思います。
私はその作品のスタンス毎に求めるものが代わりますので、この作品に関しては「この作品に対して求めているものが満たされている」ので、★5です。
そういうスタンスで、レビューを読んでくださると助かりますw
私は前作のエマを読んではいませんが、これだけ調べて当時の風俗的な世界を描写できる作者の作品であれば、読んでみたいと思わされました。
惜しむらくは、当時の考え方などの基準がもう少し見えると良いのですが、小説などと違って情報を詰め込むのに制限のある漫画という中では、減点するほどのものではないと感じています。
それでも、各登場人物を読み解けば、色々見えてくることもあります。
まず、カルルクですが、当時の出生率や寿命を考えると、これだけ小さい頃からもしっかりしているんだろうなと言うのが容易に想像がつきます。
日本の戦国時代なども同じようなものですし、やはり環境は人を育てるのでしょう。
アミルを代表に、女性は基本的に欲求を抑え込んでいる感じを受けますし、それは短命な中でどれだけスムーズに世代を重ねられるかを重要視した影響が有るのではないでしょうか。歴史上では多くの社会が取り入れているスタンスでしょう。
どうしても男の持つ攻撃的な欲望は強く、多くの社会で男中心になるので、女性はどうしても従順さを求められ、そういう教育を重ねられているのだろうなと思われます。
年の差がある結婚でも、どちらも文句1つ言わないのは、やはり教育などの成果なのでしょう。
悲しいことでも有りますが、そう言ってしまうとその時代を精一杯生きた人々に失礼な気もします。
自然環境による死が近い社会は、基本的に攻撃性が薄めである事も、いろいろな歴史を知ると多いことが解ります。
この集落の人々が、基本的には他人を傷つけないスタンスなのも、そういった部分があるでしょう。
それでも、ちょっとした奇行(と言うほどのものでもないですが)に対しては、噂話やクスクス笑いなど、人間ならば誰しも持ってしまうマイナス面は、ちらほらと描写されています。
それに、自分の意見を言う女性というのはやはり忌避されるのか、結婚適齢期の登場人物パリヤは、縁談がいくつか無くなってしまうほどと言うのも、また風俗的なものを思わせますね。
今の時代に照らせば、このぐらいのことですむなら、なにも言わないぐらいのレベルだと思うのですがw
私は歴史好きですが、この時代の中央アジアあたりは詳しくなく、作品の風俗や人の考え方、教育などの描写において、何か言えるほどの事はありません。
でも、こういった歴史ものを読むときは、その時代の風俗などに思いを馳せると、非常に興味深く見えてくるのが良いところですね。
風俗が解らない歴史ものは、基本的にスタンダードそうな登場人物の目線で見ると、かなりいろいろなものが見えてくると私は考えて居ますが、この作品においてはカルルクの父・アクンベクあたりが私にとってその役を担いそうです。
登場人物たちで特に面白いと思っているのは、アミルの兄・アゼルと従兄弟たちです。
その従兄弟のうちでも、ジョルクとアゼルの関係が面白いですね。
これはあくまでも想像ですが、アゼル自体は今の一族のやり方を快く思っていないのではないでしょうか。
しかし、教育が親(一族の長なども含む)に、絶対に逆らってはならないと言うものであろうと伺わせる言動が、全編にわたってあちこちにあります。
作中で生真面目と言われるアゼルですから、恐らくそのあたりもあって、感情を表面に出していないのではないか。そして、それを発散する役がジョルクではないのかと睨んでいます。
ジョルクはアゼルの「実はやりたいこと」を口に出したりすることで、アゼルのガス抜き役をやっている様に見えます。
アゼルが「やめろ」と言うのを解っていて、それこそが実はアゼルのやりたいことなのではないか……私はそう読み取っていますが、これからどう明かされていくか、楽しみな要素です。
3巻はスミスを追いかけての話になるそうで、上記の要素はお預けになるのが若干残念。(苦笑)
描き込みがものすごいので、紙面全体がきれいです。その点も見所ですね。
特に装飾品や布地はすばらしいです。
こういう文化を持つ人たちは、衣服も吃驚するぐらい綺麗にしてるんですよね。(見えない汚れは知りませんがw)
洗剤とかそういうものは、どういったことになっているのか……そういったことまで興味を持つと、止まりませんw
何しろ、自分が今までに仕入れたことのない知識を提供してくれる作品は、嬉しいところです。
空想だけの作品も良いですが、何らかの資料があり、人の生活が築いてきたものも、またすばらしいと感じさせてくれる作品です。